資金調達プレゼン: 「沈黙は金なり」

資金調達プレゼン: 「沈黙は金なり」

こんにちは、経営コンサルタントの入野です。

資金調達のためのプレゼンテーションの考え方についての要点を解説します。

初級者によくある間違い
■ プレゼンに緊張する本当の理由が分かっていない

プレゼンで緊張しないための特効薬は慣れるのが一番ですが、
緊張する理由を自覚していないので、緊張に押しつぶされそうになる人がいます。

    • タイプ1: ウソやゴマカシがあるから緊張する事業計画や実績にウソやゴマカシがある場合は、
      誰でも緊張します。

      ベンチャー企業には少々の弱点やマイナス情報があるのは普通なので、どんなに悪い情報でも隠さず偽らないようにしましょう。

      道義的にも正しいことを貫いてはじめて事業の意味があるし、
      銀行やベンチャーキャピタルもその道のプロなので、
      どうせデューディリジェンスのフェーズでバレます。

    • タイプ2: 過度にカッコつけたいと思うから緊張する何十人も経営者のプレゼンを拝見しましたが、
      中身と見た目が大きく乖離しているという方は見たことがありません。

      「中身が全くないのにプレゼンだけはピカイチ」という方も
      「中身は素晴らしいのにプレゼンだけが全然ダメ」という極端な方も実際にはいないのです。

      「少しだけ。ほんの少しだけ実体よりもカッコよくプレゼンできたらいいなぁ」ぐらいの期待値でいるべきなのです。

  • タイプ3: 「緊張したらどうしよう」と思うから緊張する意外と多いのがこの悪循環ロジックタイプ。確かに緊張したから本領発揮できずにプレゼンが失敗する可能性はありますが、実際には、緊張したから大失敗した!という例は個人的にはあまり見たことがありません。マウスに手を伸ばしたと思ったらお茶をコボしてしまったという程度です。

    また、緊張はある程度するべきです。

    経営者の資質の評価項目として、「目下の者に対する接し方」や「自分に対する接し方」を挙げているキャピタリストも多く、
    緊張するということは相手に対するリスペクトを持っている証拠でもあるので、特に若手のキャピタリストには緊張を好感する人もいます。

    緊張したフリをするぐらいでもいいと思います。

■ 資金調達プレゼンをコンサルタントにお願いする

「入野さんがプレゼンやってくれませんか?」とたまに頼まれたりしますが、
すべてお断りしています。

コンサルがプレゼンをすると、ウマいかもしれないけどウソくさいのです。

事業に最終責任を持つ経営者自身がプレゼンしないと迫力がありません。

投資家から見れば、カネを預ける対象はあくまで経営者本人。
コンサルタントではないのです。

中級者でもよくある間違い
■ 経営者一人でプレゼンしようとする

プレゼンの相手が5人もいるのに経営者一人で乗り込んで
1対5でプレゼンしようとするのはあまりよくありません。

理由の一つは、フィジカルパワーバランスです。

単純に人数や体の大きさが交渉の優劣を決定するというものです。

法律のプロの弁護士でも「ヤクザの事務所に一人で行かないように」と言われるように、どんなに優秀で事業計画のロジックが素晴らしくとも、1対多の状況は交渉する場としてはとても不利なのです。

もう一つの理由は、経営者の資質は一人だけではアピールしにくいからです。

経営者が自らを褒めるのはウソくさく、
第3者の口で褒めてもらった方が信憑性があります。

投資委員会の5人を相手に1人で乗り込んで、相手を圧倒して帰ってくる経営者もたまにいますが、そのようなオーラの強い方はごくわずかな限られた人です。

資金調達プレゼンにはフォロー担当者が必要なのです。

■ 沈黙の間をこわがる

プレゼンの中級者でも沈黙を無理に埋めようとする方がいます。

「経営者としての落ち着きや成熟さ」は重要な評価項目ですが、
相手が考えている間の沈黙を埋めようとして余計なことをしゃべってしまい、評価を落としてしまう方もいます。

試しに、3秒黙ってみてください。

試しに、話の途中でペットボトルのふたを開けて水を飲んでみてください。

話し手本人としては3秒は永遠のように感じますが、
聞き手にとってはそんなに気にならないのです。

■ 同じ内容を繰り返し話すことに話し手本人が飽きる

資金調達プレゼンは通常は10社以上に対して行うので、
経営者にとっては同じプレゼンを複数の人に何回も何回もすることになります。

なので、同じプレゼンに話し手本人が飽きてきて
重要な内容を省略したり、強調するのを怠ってしまうケースがたまにあります。

【言いたいこと】 ⇒ 【説明や例】 ⇒ 【言いたいことを再び】
というように、重要なポイントはひつこく繰り返すことがプレゼンでは重要です。

一人一人が重要な投資家なので、
同じプレゼンでも重要なポイントは丁寧に繰り返してプレゼンしましょう。

■ 相手をよく見ていない

プレゼンは自分の言いたいことを言う一方的なコミュニケーションではなく、あくまで交渉の第一歩です。

  • 相手の目線を追っていない
  • 相手がメモをとったページやタイミングを覚えていない
  • 相手が質問したげな表情をしたタイミングを見逃す

などのケースが散見されます。

プレゼンターがプレゼンをすることに手一杯で、相手を注意深く観察できない場合は、フォロー担当者が相手をよく観察するべきです。

上級者の使うテクニック
■ プレゼンの目的を明確に意識する

資金調達プレゼンにもいくつかの目的があります。

  • 担当者の顔合わせ、会社や商品、ビジネスモデルについて知ってもらうだけ
  • 担当者に社内の投資委員会を説得するために行動してもらう
  • 事業計画のブラッシュアップのために、投資家から知恵を引き出す

先方の担当者が若手ならば、「上司の執行役員へレポートを書きやすくしてあげることが目的」と瞬時に察知して
プレゼン内容を変えてしまう上級者もいます。

ある上級者は「ビジネスプランの資本政策セクションについて金融専門家の意見を吸い上げるあげることが目的」と瞬時に察知して、
プレゼンをフリーディスカッションの場へと変えてしまいました。

  • このプレゼンが終わった瞬間にどういう状態になっていたいか
  • このプレゼンが終わった後の次のアクションは何か

を明確に考えることがポイントです。

■ 最初の10秒で場の空気(≒投資決定)を決めてしまう

資金調達プレゼンは不思議と最初の印象でほとんどの勝負がつきます。

2回、3回とミーティングを重ねても、不思議と第一印象のいい相手からしか資金は調達できません。

第1回目のミーティングは取り返しがつかない厳しい世界ですが、
上級者にとってはチャンスなのです。

  • 自然で適切なジョーク
  • 舞台に駆け上がることで、生き生きとした高揚感を出す
  • 相手と共感できるネタをすぐに見つける
  • 部屋の照明を工夫する

などの自分のスタイルや相手のスタイルに合った場の空気の作り方を上級者はよく知っています。

本日は以上です。

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