宇宙旅行ビジネス: 「地上の覇者の天空の戦い」

宇宙旅行ビジネス:「地上の覇者の天空の戦い」

こんにちは、経営コンサルタントの入野です。

本日は宇宙旅行ビジネスについて解説します。

実は、民間で宇宙旅行に行ける時代

宇宙旅行には2種類があります。

ひとつはオービタル宇宙旅行と呼ばれる形態。

「オービタル」とは地球をぐるっと回る「軌道」という意味です。

上空400kmの軌道をグルグルと回り
国際宇宙ステーションに
1週間ほど滞在する旅行です。

価格は20億〜40億円。

シルクドソレイユの創業者などの7人の民間人が
すでに購入し、宇宙旅行を体験済みです。

のべ人数は8人で、2回行った人も1人います。

最近は40億円に値上がりしましたが、
大物歌手のサラ・ブライトマンが申し込みました。

もう一つの宇宙旅行のタイプは、サブオービタル宇宙旅行

「サブオービタル」とは「弾道」という意味で
高度100kmへ弾道のような軌跡で上昇し、
5分間の無重力体験をして帰還するという旅行です。

丸みを帯びた青い地球とブラックスカイを
眺めることもできます。

価格は約1800万円

バージンギャラクティック社などがすでに売り出し、
就航はまだ2013年後半の予定ですが、
申込者はすでに世界で550人以上います。
日本人も16名がすでに申し込み済みです。

宇宙旅行って、
NASAやJAXAの宇宙飛行士の試験に合格しなければいけない時代は終わり
お金さえ出せば、民間人でも宇宙旅行にいける時代がすでに来ているのです。

しかも、宇宙旅行商品を提供しているのは、
国家ではなく、民間企業です。

「賞金レース」から「地上の覇者の天上の闘い」

民間による宇宙開発がブレイクするキッカケになったのが、
アンサリ・エックスプライズという賞金レースでした。

サブオービタル飛行を
2週間で2回成功した最初のチームに
賞金10億円を与えるという賞金レースです。

リンドバーグの大西洋横断も賞金レースでしたが、
その宇宙版といったところです。

世界中から20社以上のチームが
様々なアイディアと技術で参戦しました。

しかし、
50人足らずのベンチャー企業 スケールドコンポジット社
2004年10月に民間初の宇宙旅行を実現し、賞金を獲得しました。

どうやったかというと、母船と子船の2段方式

地上からは運送用航空機のような母船で飛び上がり、
上空15kmで子船を切り離して空中発射し、
上空100kmまでジェットエンジンでマッハ3以上で急上昇し、
降下する時には、フェザーという尾翼を65度に立てることによって
大気圏再突入時の摩擦熱の発生を防ぐ
という画期的なものでした。

航空機デザイナーで創業者のバート・ルータンは
マイクロソフト創業者ポールアレンから30億円の資金を受けましたが、
その金額でも航空宇宙業界の常識的には全く足りない予算規模だったのですが、
様々な創意工夫でやり遂げました。

賞金獲得の直後、
リチャード・ブランソンのバージングループが
スケールドコンポジット社から技術ライセンスを受けて、
宇宙旅行を発売し現在に至ります。

リチャード・ブランソンは
2005年あたりに推定100億円をバージンギャラクティック社に投資しましたが、
2009年7月にアブダビ投資庁から280億円のファイナルラウンドを受け、
その時点でポストマネーで900億円の時価総額がついていますので、
金額もさることながら、IRR上も悪くない数字だと思います。

ポール・アレンも、
10億円の賞金レースに30億円を投資したのは
「大人の遊び」と思われていましたが、
30億円はすでに回収できたのではないかというのが
業界の噂です。

ペイパルの創業で巨万の富を築いたイーロン・ムスクも
スペースエックス社という民間宇宙ベンチャーを立ち上げ、
2012年には国際宇宙ステーションへの物資補給ミッションを達成しました。

宇宙ビジネスは
地上のビジネスを制した覇者たちが繰り広げる天上の闘いとなっているのです。

「賞金レース」の政策効果

ビジネスモデルとして、個人的に注目しているのは、
エックスプライズ財団のお金の集め方です。

イノベーションを起こそうという仕組みは
補助金・助成金やファンドなどいろいろあります。

しかし、補助金・助成金やファンドは、極端にいえば、
失敗者にも貴重な資金を無駄に使ってしまう仕組みです。

ベンチャーの成功確率はIPO基準でセンミツ(1000分の3)であることは
統計的にも証明されています。

どんなに優秀なファンドでも
投資の成功率はIPO基準でも20%-45%ほど。
半分以上は無駄な案件に無駄な金が使われているということです。

賞金レースという仕組みが面白いのは
成功者にしか賞金を与えないので、無駄に使われるお金は0%であることです。

無駄なお金を使わなくていい分、
賞金10億円という挑戦者が出やすい金額に
ニンジンを大きくしてあげることができるのもメリット
です。

補助金や助成金の方式で
アンサリ・エックスプライズと同様のイノベーションを生もうとしていたら、
10億円という金額では済まなかったはずです。

「リバース保険」

エックスプライズ財団が使ったもう一つの面白い仕組みはリバース保険

アンサリ・エックスプライズは
アンサリさんという女性大富豪から資金を提供されましたが、
アンサリさんからの資金だけでは10億円に届きませんでした。

でも、
保険会社と交渉して、「リバース保険」を組成したのです。

エックスプライズ財団が保険料の掛け金を払い、
まさかの時( ≒ 受賞者が出た時)には保険会社が保険金を支払う
というスキームの保険です。

普通の保険は
「まさかの時」 ≒ 望ましくないことが起こった時ですが、
エックスプライズの保険は
「まさかの時」 ≒ 望ましいことが起こった時

保険会社は航空宇宙の専門家に依頼して
本当に宇宙旅行を実現する民間企業が出現する確率を計算してもらいましたが、
民間による宇宙旅行の成功なんて当時は誰も信じず、
非常に低い成功確率が計算されたため、
エックスプライズ財団は非常に少額の掛け金しか払わずに済んだのです。

ベンチャーの資金調達は
成功すると信じている人からお金を出してもらうのが普通ですが、
成功すると信じていない人からお金を出してもらうという逆転の発想です。

本日は以上です。

入野

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